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2006.03.05

二年ぶりの約束

IMGP4445 ついに映画「ワンピース劇場版・カラクリ城とメカ巨兵」が公開された。昨日、初日の早朝上演で初めて完成作品を観た。

 とっても楽しい映画に仕上がっていた。僕が笑顔になる以前に、場内のお客さんたちが大笑いしてくれていた。嬉しかった。心底嬉しかった。

 作品の上映に続いて、渋谷のホテルで完成パーティが催された。集まった人たちの顔がみんな笑顔だ。田中真弓さんを始めとするレギュラー声優陣の皆さん、ゲストの稲垣吾郎君、そして、とぶくすり以来の付き合いである極楽とんぼの二人。彼ら出演者はもちろん、東映、フジテレビ、集英社など、映画に係わる関係者たちの表情が底抜けに明るい。そして、その中央に今回の素晴らしい作品を仕上げてくれた宇田監督がいた。製作者らしく「まだまだ不満が…」と言っていたが、私は彼に熱い握手を求めた。本当に感謝の気持ちで一杯だった。

 原作者(尾田栄一郎さん!)からは、逆に握手を求められて驚いた。「伊藤さん、ようやく、春が来ましたね!今度の作品なら甥っ子さんや姪っ子さんたちにも安心して見せられますね?」と、彼が言う。「甥っ子さんや姪っ子さんたちに」というのは2年前に初めて二人が会った時、私が言った言葉だった。「ワンピースでどんな映画を作りたいですか?」という原作者からの質問に対して「僕の小さな甥っ子や姪っ子たちがワクワクドキドキ、大喜びするような映画を作りたい!」そう私は答えた。それを聞いて原作者も「それでお願いします!」と答えた。その時の夢が、ようやく2年ぶりにかなった。そのことを彼は言っていた。そして、そんな2年も前の言葉をしっかりと覚えていた尾田という青年の凄さに感動する。さすがワンピースの作者だ。

 実は、今回の私の感動には、もっと深い物語がある。

 かつて私が日記にも書いたように、昨春の映画「ワンピース劇場版・オマツリ男爵の秘密」のシナリオを書いた時も私は「大人から子供までが楽しめる大娯楽作品」を目指した。そして、その出来はともかく、シナリオはその方向性で完成し、当時のプロデューサー陣、広報部門の人たち、さらには原作者までもが喜んでくれた。しかし、その半年後に完成した映画は、まったく別のムードに包まれたものだった。確かに、私の書いた世界がそこにはあった。でも、笑い的な要素はそのほとんど削られ、替わりに、作品の背後に流れていた悲劇性だけが強調された作品に仕上がっていた。もちろん、それはそれで成立している素晴らしい作品だったと思う。そして、どんなに改変されていようと私自身の作った世界だから、私はそれを否定する気になれない。どんなに物語の重点が変わってしまおうと、オマツリ男爵もブリーフも私の息子だ。可愛くて可愛くて仕方がない我が子だ。だが、完成した映画が、最初に映画会社から依頼された作品とは似ても似つかない作品として仕上がっていたことだけは間違いなかった。

 そこに、もうひとつの悲劇が生まれた。

 当時の私は、「翌年のワンピース映画のシナリオも書いて欲しい」と頼まれている真っ最中だったのだが、昨春の映画が完成した途端、その現場が非常に複雑なものになった。つまり、私のシナリオを読んだことのある人間は「今度こそ楽しめる映画を作りましょう!」とリクエストしてくれる一方で、私のシナリオを読んだことがない人間は「子供がメインターゲットの映画で、あんな陰気な作品を書く奴にシナリオは任せられない!」と私の目の前で吐き捨てた。非常に、非常に複雑な状況だった。自分の責任とは思えない理由で、自分の未来が否定されている状況は、とにもかくにも我慢がならなかった。しかも、当時の私は本業の仕事(つまり、テレビ番組の仕事)で前年度とは比較にならないほど忙殺されていた。こんな状況ではとても映画のシナリオなど書いている暇はない!そう思った私は「2年連続でシナリオを書くのは遠慮しよう」。そう、一度は決意した。

 だが、結果として私はもうひとつの決断を下した。

 自分の作品の内容ではなく、自分の作品がその後辿った運命のせいで、他人から批判を受けることがどうしても耐えられなかった私は、今年の映画のシナリオも引き受けることにした。

 このまま「本当は違うんだよ!」とか叫び続けても、所詮は机上の空論に過ぎない。言葉が空しく中空に消えるだけだ。そんなことをしてもなんの意味もない。正直言うと、当時のスケジュール状況はとてつもなく深刻な状況にあった。だが、それでもシナリオを引き受けることを決意した。どうせ運命を変えるなら、「言葉」じゃなく「作品」で変えたいと思ったからだ。さらに、映画会社は、前年度の作品が陰気すぎたという反省から、翌年、つまり今年の作品には「複雑な人間ドラマとかまったく必要ないから、とにかく子供たちが楽しめる作品を!」という、私にとっては、前年度以上に難しい注文をつけてきた。だが、それも引き受けるしかない。理由はともかく、自分にかかってきた汚名は、何としても自分の作品で返したかった。

 そんな思いで昨年の春、今年の映画のシナリオを書いた。正直、胃に穴が空きそうな精神状態とスケジュールが続いた。しかし、何とか書き終えることが出来た。そして、宇田監督という素晴らしい監督さんと、その優秀なスタッフの皆さんが、このシナリオを見事な映像作品に作り上げてくれた。その作品は狙い通り、子供たちが腹を抱えて笑えるような映画に仕上がったと思う。実際、初日の映画館では、子供たちの笑い声がずっとこだましていた。シナリオの出来については、これから世間や評論家たちが厳しく判断してくれることだろう。でも、そんなことよりも今は、ずっと果たしたかった約束が果たせたことに、正直ホッとしている。そう、二年前に原作者としたあの約束!

「僕の小さな甥っ子や姪っ子たちがワクワクドキドキ、大喜びするような映画を作りたい!」


※写真:*istDs

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