【覚え書き】朝ズバ=駒野母事件のこと
正直に言うと、「事件」というのは言い過ぎで「騒動」レベルのものだが、結果的にそれは新聞沙汰になった。さらに説明すると、事件(騒動?)に巻き込まれたのは、オフラインの「リアルな私」ではなく、twitter上でアカウント名「@ito3com」を名乗るオンラインの私だ。
その記事がこれ。
●駒野選手の母に謝らせた…誤情報炎上、批判殺到すぐ修正(朝日新聞)
この記事の中に登場する「番組内容を確認した人」が私であり、写真の中のtwitterのツイートのうち、1つ目のツイートと、2つ目のツイートの前半部分が私の書いたものである。
さて、なぜこんなことになっているのか?…というのは、実は今回の文章のテーマではない。たまたま、とある事件に巻き込まれることになった際に感じたことを、どこかに書いておきたいと思った。
twitterの中の出来事なんだから、twitterの中でとも考えたが、もともとtwitterは長い文章を載せるのには向いていない場所である。そこで、ここ、自分のブログに書いておくことにした。
まずは、簡単に時系列で事件の概要を書く。…と思ったが、面倒くさいので、上の記事に譲る。前提条件は、だいたいその通りだ。
で、私自身のことを書けば、6月30日の昼頃は、自宅でいくつかの〆切を書いていた。普段ならすでに会議に出かけている時間である。この偶然がこの日の事件に繋がった。
朝から〆切に追われていた私は、記事に登場するような「朝ズバ」を非難するツイートを朝から何度も見かけていたが、それに対して対応するほどの余裕がなかった。でも、私は確実に怒っていた記憶がある。それは、非難ツイートを読んで、まったく同感であり、時間さえあれば自分もRTしたいと思っていた。
でも、なぜかしなかった。いや、うっすらとした記憶では、そのうちのどれかにRTした記憶もあるのだが、あとで確認したところ見あたらなかった。単純に、一度RTしたものの、何かの理由で削除しちゃっただけかもしれない。
そうこうするうちに、午後2時くらいになった。この頃、〆切を急いでこなしながら、たまにtwitterを覗いていた私に、気になる人物のツイートがあった。
@RAM_RIDERさん。私が知る限り、彼は音楽家・DJではあるが、テレビとはとくに関係のない人種の人間である。そんな彼が「朝ズバ」に関する批判的なRTについて、苛ついているのが気になった。以下のようなツイートがいくつか続いていた。
■朝ズバRT止まらないなあ。 怒ってる人観てない人ばっかりだなあ。
その時に私が思ったのは以下のことだった。この当時、つまり、30日の午後2時頃、朝から飛び交っていた「朝ズバ」を非難するツイートの勢いは、twitter名物のRTの波に乗って凄まじい勢いで広がっていた。
そんな中、テレビ業界とはまったく関係のない@RAM_RIDERさんが、「朝ズバ」を非難するツイートをRTする人に、誰彼構わず「あなたは本当に番組を観た上で書いているのか?」的な言葉を投げつけていたことに、私は興味を持った。
しかし、ここまで来ても私はまだ葛藤していた。実は私には、現在目の前で進行している問題を解決するために最適な道具があった。VAIO X Station。このパソコンは、24時間全局のテレビ番組を録画する設定にしてあった。
だから、このVAIO X Stationを使えば、今まさに問題となっている「朝ズバ」の街頭場面を確認することが出来る。しかし、目の前の〆切は非常に深刻な状態にあった。記憶する限り3時間ほどの放送時間がある「朝スバ」を今から全チェックすることなど無理だ。
そこで私は、妥協的な結論を出した。とにかく、VAIO X Stationを早送りで観て、「朝ズバ」の事実関係だけをチェックする作戦。この時点で私がひっかかっていたのは、「朝ズバ」が「駒野選手の母親を引きずり出して謝罪させた」的な文章だったので、その点だけでも確認しようと思った。
もしも事実なら、私もRTの波に乗っかるべきだし、もしも事実に反するなら、そのことを告げるべきであると。正直、この時点では、「あの番組ならやっちゃってるかもな」と思っていた。それは事実だった。
だから、噂が本当ならそれはそれで、そのことを告げればいいし、最悪、事実じゃなかったとしても、そのことを報告すれば、私の作業は無にならないはずだ。そう思って、VAIO X Stationに録画されていた、その日の「朝ズバ」を早送りで確認した。
その結果…
まず一番驚いたのは、3時間もの番組の中、駒野選手の母親が出てくる場面があまりにも短かったことだ。前述の記事にもあったように、出番は非常に少なかった。しかも、そのニュアンスは、少なくとも「駒野選手の母親を引きずり出して謝罪させた」というものではなかった。
ただし、今回の事件のきっかけとなったツイートが、そもそもとして悪意に満ちたものであったかどうかは不明である。その文章は、悪意がなくても書きうる類のものだった。「引きずり出して」はニュアンスの問題でしかないからだ。
最初に番組を見た人間が素朴に感じたままを書いたら、「駒野選手の母親を引きずり出して謝罪させた」という文章になって、それを読んだ人間が、この一行からもう少し悪意のある現実を想像したというのが、事件初期の背景じゃないかと想像する。
詳しくは、当日の私のツイートをそのまま引用する。
■(時間がないので)早送りで確認した限りでは、悪意の報道姿勢は見つからず。初期ツイートの表現が誤解を生んだだけと思われる。 RT @RAM_RIDER 朝ズバRT止まらないなあ。 怒ってる人観てない人ばっかりだなあ。(2010.06.30-15:14)
■@RAM_RIDER ネットはスピードが命!だからこそ、ネットの世界では冷静さもまた命!なんですね。今回のことで学びました。(2010.06.30-15:34)
■今朝の「朝ズバ」を早く送りで見て確認したこと。(1)他の家族にはじゃんじゃん電話などでインタビューしていたが、駒野選手のお母さんに対して、生放送でインタビューするようなことはなかった。(2)駒野選手のお母さんへのインタビューが登場するのは、「パラグアイ戦ドキュメント」みたいなVTRの中だけ。試合の進行と同時に、各選手の地元で親戚一同と一緒に集まって試合を見守る家族の表情を見せていくという、よくある種類のVTRだ。で、いろんな選手の家族も登場した中に、駒野選手のお母さんも登場する。さっきまで試合を見ていたと思われる会場にいる駒野選手のお母さんが、大勢の取材陣に囲まれて「みんなに申し訳ない」(編集点)「よくここまで頑張ってくれたと、言ってあげるだけです。」と涙ながらに答えている15秒ほどの短いシーン。TBSじゃないと思うが、後ろに見切れている女性記者も半泣きである。会場自体がぴーんとはりつめた同情の空気の中にあったように見受けられる。(←これはあくまで僕の感想。)この時、カメラにその姿がまったく写っていないし、声さえも聞こえていないTBS取材陣に悪意があったかどうかは正直不明だが、このVTRを見るだけで彼らに悪意があったと断定することは難しい。また、ここまでの編集に悪意があったとも、僕には見えなかった。悪意のあるスタッフなら、このコメントを何度も何度も番組内で流すと思うが、僕が気づいた限りでは、そんなこともしていなかった。…と、僕が「朝ズバ」を早送りして見つけた駒野選手の母親へのインタビューはこれだけだったが、他にも出てた?…ちなみに、僕がここまで調べる気になったのは、僕も朝方、誰かのツイートを見て興奮してたからだ。正直、ムカついた。そして、申し訳ないけど、あの番組ならそれぐらいやるかもとさえ思ってしまった。今となっては申し訳ないが…。(2010.06.30-16:10)
以上のツイートを発してから、とんでもない数のリツイートやリプライが届いた。100とか200という数じゃなく、本当に多数の!そこで、私も以下のような、いくつかのリプライなどを書いた。
■早送り再生で大事な事実を見落としてないといいな。誰か再確認して〜!僕にも仕事があるので、これ以上、時間はかけられない。お願い〜!(2010.06.30-16:20)
■実際僕は、早送り再生で事実関係だけを調べました。だから、オンエアをちゃんと見ていた方と感想がずれる可能性は多々あると思います。それはいっさい否定しません。 RT @□□□□□ 実際に見ていた... http://tinymsg.appspot.com/exR(2010.06.30-16:25)
■この噂は初めて知りました。僕が読んだ初期ツイートにはありませんでした。だから、再生時にも調べてません。 RT @□□□□□ これって、朝ズバでのみのもんた「国民みんながっかりしてるんだよ」発言はなかったということじゃないの?(2010.06.30-16:30)
■どっちの意見の人も、「鬼の首」をとらないように!だって、僕に悪意があるかもしれないんだよ。その証明、どうやってする?どっちにしても、流されすぎないこと!冷静さを!…ぐらい言っておかないと、今度は何かあった時に僕の首がとられそうだ。やだ、そんなの!(2010.06.30-16:44)
■正直、まだ真相がすべてわかったわけじゃない。けど、ひとつだけ言えること。RTするのも簡単じゃないってこと。簡単が売りのはずなのにね。きっと「否定」の時はとくに気をつけろってことなのかな? RT @□□□□□ RTするのもなかなか難しいもんですね。。。(2010.06.30-17:26)
■ひとつじゃなくて、たくさんあるのかもしれません。だから大切なのは、誰かの真実じゃなく、あなた自身の真実。…とか。 RT @□□□□□: 真実は何?(2010.06.30-17:45)
■これならウソでも誰も傷つけない。だから、じゃんじゃんリツイート! RT @□□□□□: パラグアイ戦の後,うな垂れる駒野に大久保が一言「てめー1人で負けたとか思ってんじゃねーよ うぬぼれんな」 #2010wc #okachan_sorry(2010.06.30-17:49)
■皮肉なことに、今から赤坂で会議。 http://tweetphoto.com/29954760(2010.06.30-17:58)
※注意…「@□□□□□」と表現したのは、それぞれバラバラのtwitterアカウントを示す。正確なアカウントはココでわかる。
以降も、RTの嵐は翌朝まで収まらなかったけど、このあたりで、朝〜昼と燃え上がっていた騒動はかなり収まっているのが感じられた。
ちなみに的な話をすれば、最初はちょっとした誤解から始まったと思われる今回の事件も、途中からは、冒頭の記事にも登場したような悪意の創作(司会のみのさんが「PK外しちゃったね」「日本国民みんながっかりしているよ」と駒野選手の母親に問いかけているような架空のやりとり」)まで加わっていった。
以上が、今回の事件(騒動?)の私目線から見た、あらましである。
で、最後に、以上の事件を受けて、思ったことをひとつだけ書いておく。
途中のツイートでも書いたが、被害者の出なさそうな話題なら、未確認でもガンガンRTしちゃえと思う。そんな畳みかけるようなスピード感こそがRTの魅力だし。極論だけど、そこにはブレーキなどなくてもいい。
被害者が出るかどうかの判断は誰がするのよ?…というツッコミは理論的には正しい。しかし、それを客観的に断定する方法など実際には存在しない。だから、そこは理論では越えられない。
それを越えられるのは、集団知の道徳版ような実に曖昧なものである。そんなものに頼っていいのか?うん、いいのだと思う。それに頼れなくなったら、メディアそのものが崩壊する。だから、頼るのである。という逆説である。
では、具体的に、「被害者が出そうなRT話題」だった場合、どうするのか?誰かがどこかで、燃えさかる炎に冷や水をかけるような仕事、今回で言えば、@RAM RIDERさんのような役割を演じるべきである。
これはもう、ルールの話でもないんでもない。気づいた人間が気づいたレベルで動くしかない。たった今駆け巡っている、燎原の炎のようなRT。そのソースは大丈夫か?と。そうして、周囲の人間の一部が、その声に耳を傾けるような声をあげるしかない。
何度も言うが、ここにももはや、ルールはない。「そうしないと、大変なことになってしまう!」という危機意識に基づく自浄作用に頼るしかないのである。そのメディアの魅力を潰すほどのルールは、設定しても意味がないからである。
自分たちが気持ちいいと思っているメディアの中で、なんとか最悪の事態だけは避けたい。そんな情緒に基づく意志と行動だけがメディアを救う。救えなければメディアは信頼性を失って衰える。もしくは、死ぬ。それだけのことだ。
古いメディアもそうやって生きながらえてきたはずだ。最低限のルールは必要だが、ルールだけでは息苦しくて死んでしまう。逆に言えば、危機意識に基づく自浄作用でもってなんとか信頼を勝ち取っていられる期間こそが、そのメディアの寿命なのかもしれない。
で、自浄作用が機能しなくなると、そのメディアは弱体化し、やがて崩壊する。それだけのことなのでは、と思う。うーん、これって別に、twitterだけの話ではないような気がする。ルールじゃなく、自浄作用でもって、どこまで信頼性を担保できるのか?新旧さまざまなメディアについても言える、なかなか難しい問題だと思う。
※時間がないので、twitter用語については、「知っていること」を前提に書いている。不明な点はココなどで。
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