本当の危機
今週は、不思議なことに、普段めったに会うことのない種類の人たちに、大きく心を動かされた。しかも、全員同じ共通点を持っていた。なんだろう、この偶然?!
金曜日は、和風総本家の新オープニングの撮影現場に行ってきた。目的は二つ。まもなく番組でニューする十代目豆助に会うため。そしてもうひとつ。いつも素晴らしいナレーションを読んで下さっている麻生美代子さんにご挨拶に行くためだ。
現場に着くと、そう!いつもあの番組オープニングに登場する、古い日本家屋の家の中に立っていた。あの家、実は、意外と都内の中心部に建っている。あの家に着くと、麻生さんと豆助がいた。しかも、麻生さんが豆助を抱きしめて遊んでいる。(写真)とっても微笑ましい光景だ。
同番組でいつも、国宝級のナレーションを読んで下さる麻生さんだが、豆助と戯れる姿は、ちょっと失礼だが、とってもちいちゃくて、可愛い、そう、可愛すぎるお婆ちゃんでしかない。そんなお婆ちゃんが、もっと小さな豆助と戯れている。なんかもうたまらない風景だ。
そんな麻生さんだが、実は今年で86歳。なのに、ひとたび、録音ブースに入ると、神がかったよういに光り輝き、あの天才的なナレーションを読み上げる。数時間の録音でも声が乱れることはない。
実は麻生さんは大正時代最後の年、1926年に生まれた。この歳の同級生には、エリザベス2世、マリリン・モンロー、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン、チャック・ベリー、星新一…らがいる。その名前を聞いただけで、麻生さんの奇跡の一端がわかる。
さて、今週はもうひとつ、奇跡の瞬間を見た。
それは、ビルボード東京で行われたバート・バカラックのライブ。正直、睡眠不足のまま直前飛び込みという最悪のコンディションだったことを、あっという間に忘れた。ちなみに、バカラックの年齢は麻生さんより2歳若い。今年で84歳。
■ビルボード東京「バート・バカラック 盟友に捧げる幸福のメロディ」
実は、彼のライブを前回見たのは2008年2月。だから4年ぶりのオリンピックみたいな間隔で彼を見た。正直、最初に彼が現れた時、愕然とした。4年前からさらに小さくなった気がする。ジャケットも左の肩からかなり大きく滑り落ちている。
急激に衰えたな、と見えた。実際、演奏が始まると、4年前でさえ危なっかしかった彼特有の中腰姿勢も明らかに減っていた。ノってくると、鍵盤を叩きながら中腰姿勢で立ち上がり、指さし確認のようなポーズを振り回しながら、周囲にドヤ画を振りまく。そんな姿も激減していた。明らかに衰えていた。
だが、鍵盤を叩くバカラックの指先と表情だけは、まるで自らが絶頂期の洒落男のままであるかのように、高いテンションとテクニックを保っていた。いや、ずっとではない。休んでいたり、ちょっと危なっかしくなったりする瞬間もあった。でも、ここぞ!という場面での集中力は段違いだった。泣きたくなるほどの情感で鍵盤を叩き続けた。
さらに、もはや声帯の限界としか思えない彼のボーカルが、独特の味わいを出していた。声のトーンも前回より明らかに落ちている。だが、歌う箇所は増えていた。自らのそんな、限界を楽しむような味わいさえも武器にしているように見えた。本当に素敵なひとときだった。「Close to you」や「ルック・オブ・ラブ」など、本当に泣きそうになった。
これだけでも、かなり僕の意識はひとつの方向に向かいつつあった。だが、実はもうひとつ、先週末から僕の心を掴んで話さない奇跡の男がいた。1931年生まれ、高倉健さん。先週土曜日の「プロフェッショナル・高倉健スペシャル」と月曜日の「同インタビュースペシャル」を録画で見た。
プロフェッショナル~仕事の流儀~■高倉健スペシャル
プロフェッショナル~仕事の流儀~■高倉健インタビュースペシャル
震えるほど興奮した。81歳にして、自分の技量と人間性をより高い位置へと導くことに命を賭ける男は、思ったよりも軽妙な男だった。が、すべての瞬間を、自分自身という作品をハイレベルに押し上げることに賭けている。そこに痺れた。
さらに、87歳の大先輩、大滝秀治さんの芝居に涙しがらも、一方で嫉妬し、「負けたくないねぇ」と、本気で悔しがる。「(大滝さんのように)神々しい顔ってどうやったらなれるんだ?」と素朴に知りたがる。恥も外聞も捨てて、必死に知りたがる。
映画の撮影中、スタッフに声をかけ続ける。スタッフの作業を見守り続ける。分かれるスタッフのために涙を流せる。こんな恐ろしい男のことを知ってしまい、もう、どうしていいかわからないぐらいに落ち込んだ。何をしたって叶わない。
さて、というわけで、今週はやたらと80歳代の生ける巨人たちに圧倒された一週間だった。彼らは、とうの昔に仕事の緊張感から解放されて、穏やかな余生を送っていてもおかしくない人々である。だが、彼らは違う。現役のまま、あるいは、老いとの戦いの中、現役以上の厳しさとともに、自分自身と戦っている。
果たして、自分にこんなことが出来るだろうか?正直に言おう。絶対に出来ない。でも、でも、でも!…と三回思った。日本が今、危機だと言う。実際、自分だってそんなこと、一度や二度ならず言ってきた。だが、本当にそうだろうか?…本当に危機なのは、危機だと思ってる自分たちなんじゃないだろうか?
同じことを、まったく別のタイミングでも思った。今年の夏のロンドン五輪だ。あの中で、若い才能たちが、自分たち自身の力で、これまでの日本人では越えることの出来なかったハードルを次々と越えていた。あの時にも思った。日本は今、本当に危機なんだろうか?本当に危機なのは…
そんな訳で、とっても考えさせられた一週間だった。
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