視聴率の数字を書かない理由
知人から質問を受けたので、めったにしてこなかった話を。そう、視聴率の話。
私のTwitterやブログでは、原則としてまず、その数字が良かろうが悪かろうが、「自分の番組の視聴率の話」をしないようにしてきた。それにはもちろん、理由がある。
実は、私の仕事の現場で、「視聴率」はとっても大事な指標である。正直、これを基準に番組の未来が変わる。だから、この数値のことをかなり気にしながら仕事をしていると言っても過言ではない。
でも、ある時期から、確信犯として、一般視聴者の皆さんにTwitterやブログで「自分の番組の視聴率」の話をしなくなった。理由は簡単だ。視聴率は私の仕事場の大事な指標ではあるが、必ずしも視聴者にとって大事な数字だとは思えなくなってきたからだ。
その理由は「年齢分布」にある。
実は、日本の総人口における年齢分布は、この数十年、凄まじい速度で変化を続けている。例えば、総人口における65歳以上の高齢者が占める割合は、1990年におよそ8人に1人(12.1%)だったのが、2011年にはおよそ4人に1人(23.3%)まで急上昇(※1)している。わずか20年で割合が倍増している。
また、50歳以上の人口は2007年に42.5%まで上昇し、まもなく50%を超えるだろうと言われている(※2)。簡単に言うと、日本人の半数が50歳以上になる。
一方で、ちょっと手許に正確な数値がないが、若年層の人口比がもの凄い勢いで落ちてきている。そりゃあそうだ、ここ2年ほど出生率は微増(※3)しているものの、それぐらいで日本の総人口維持を守れないという状況に日本はあるからだ。(※4)
結果、何が起きているかというと、現在、視聴率の意味が、過去に比べると、どんどん変わってきていて、同数値における高齢者の存在感が尋常ならざるほど強くなり、若年層の存在感が尋常ならざるほど弱くなってきている。この勢いが止まらないどころか、年々激しくなってきている。
その結果、少し前ならゴールデンタイムでも10%程度はあった子供向けアニメの視聴率が簡単に一桁台でも低めの数字に落ちるようになり、まるで時代劇のような勧善懲悪の一話完結型ドラマがとくに話題になってもいないのにとんでもない視聴率を稼ぐことが増えてきた。(※後者は、番組数を増やしすぎて、さすがに飽きられかけてきているようだが…)
もちろん、それ以外の傾向もあるので、一概には言えないが、少なくとも50歳以上、65歳以上の高齢者を意識しない番組が高い視聴率をあげることは難しくなってきた。
このこと自体は別に悪いことじゃない。日本の年齢分布が実際に、そういう風に変わりつつあるのだから。でも、ここで問題が二つほどある。
一つはテレビCMのスポンサー問題だ。だが、これはややこしいので省略する。ここで重要なのは、もうひとつの視聴者問題だ。
もちろん、視聴者にとっての視聴率とは?ということを考えるとき、高齢者のことだけを考えれば、視聴率は依然として自分たちの嗜好に近い数値だが、それ以外の年齢層、とくに若い年齢層からすると、あまりにも自分たちの嗜好とは離れすぎた数値に見えるはずだ。
その結果、テレビ番組が視聴率を意識すればするほど、若年層からは「自分たちのことを軽視したメディア」に見えてしまう。それが進むと、若年層はどんどんテレビというメディアから離れてしまうかもしれない。(※5)
これが、さらに現行の視聴率に深刻な影響を与える可能性がある。ただでさえ少ない若年層がテレビを見なくなればなるほど、高齢者の存在感がますます強くなる。その結果、視聴率だけを目指したテレビ番組は、高齢者の方を向きやすくなる。そうなると…
そんな負のスパイラルが、今の状況だと起こりうる。それだけは避けたい。
という訳で、せめてもの抵抗として、自分のブログやTwitterでは、自分の番組が良かろうと悪かろうと、視聴率の数字を書かないようにしている。私一人がそんなことをして、何かが変わる訳でもないとは思うが…。
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