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2015.04.22

ヂロウ物語 その1

 実際にその病気になるまで、自分も「痔瘻(じろう)」という病気について何も知らなかった。「痔のお友達」でしょ?ぐらいの知識だった。

 が、違った。

 「痔瘻です」と診断されたのは昨年末のことだった。年末、軽い風邪をひいて、すぐに治ったことがあった。が、治ったはずなのに、毎日突然熱が38度から39度近くまで一気に上がる。で、まだ風邪が治っていないのかと思ったら、すぐに平熱まで下がる。これが何度か繰り返された。

 これは、おかしい!

 こんなことは初めてだった。一週間ほど過ぎて、ひとつの事実に気づいた。異常発熱が何度も繰り返す以外に、風邪っぽい症状はまったくない。代わりに、風邪をひいていた頃から感じていた不思議な痛みが、ゆっくりゆっくりと増大していることに気づいた。

 それはお尻の痛みだった。

 しかもそれは、不思議な痛みだった。痛みそのものはこの時点ではまだ激痛とは言えない。が、発熱と同時に頭痛が来るのだが、それとシンクロするように、お尻の痛みもゆっくりと増しているように感じた。

 だんだん疑念が渦巻く。そして土曜日が来た。最初に異常を感じてからちょうど一週間ほどが過ぎていた。お昼過ぎ、私は悩んでいた。明らかにお尻の痛みが強くなっている。しかも、これまで感じたことのない痛みだ。なんだ、これは?!

 私のお尻に何かが起きている!

 が、その正体はわからないままだ。その頃は年末で、さまざまな仕事も詰まっていた。さらに、あと10日ほどもすれば家族で故郷大阪に帰る予定もあった。今、倒れたらえらいことになる。で、ネットを検索した。今から行ける「肛門科」を探した。

 ところが、ない!

 そんな訳はないと、必死で探したら、土曜日の夕方近くまで空いている、東京近郊で唯一の肛門科を見つけた。迷わず、その病院を目指した。東京の右半分に住んでいる私にとって、その病院はかなり遠い場所にあった。

 1時間近くかけて、東京の左半分にあるその病院に着いた。そして、とても激痛を伴う診察の結果、「こりゃー、痔瘻だナ」と言われた。初めて聞く病名に戸惑う。老医師はそのまま詳しい説明をするが、早口だったせいもあって、なかなか頭に入ってこない。

 医師はさらに続けた。「来週確認することになるけど、たぶん手術する必要がある。その場合は、ちゃんと麻酔の先生を呼んであげるけど、もしもその前に痛みが我慢できなくなったら、応急処置をする必要がある。

 これは、痛いよ。

 この応急処置の場合はちゃんとした麻酔医は呼べないから、私が麻酔をやる。簡単な麻酔でやる。だから、痛いよ。それなりに痛い。覚悟しておいて!」…と、かなり衝撃的な説明が耳に飛び込んできた。とにかく、すべては一週間後にもう一度診てもらって判断することになった。

 これはえらいことだぞ!

 その週末は、いつでも倒れていいように、かなり大量の締切仕事をこなした。お尻は激痛だったが、手術ってことになったらそれどころじゃない。とにかく書いた。どんどん痛くなる尻の痛みを我慢して。この時点で薬は貰っていたが、週末、痛みはどんどん増していた。

 痔瘻は明らかに私の体の中で、というか私のお尻の辺りで進行していた。

 この週末のことは今でも忘れない。確か、大型特番2本分くらいのスタジオ台本を続けざまに書いた。かなりの分量だった。が、それらを書きながら時限爆弾が動いていることに気付いていた。お尻の痛みは、痛みだけでなく、不思議な感覚を伴っていた。

 お尻のあたりで何かがどんどん膨らんでいる!なんだ、これは?!

 上がったり下がったりする高熱とそれに伴う頭痛、お尻のあたりで地獄の風船がじわじわと膨らんでいくような感覚とそれに伴う痛み。いずれも、これまで経験したことのない感覚だった。それでも仕事だけはあげないと!…と頑張った。

 忘れもしない。月曜日の未明だった。急ぎ仕事の〆切だけを終えた私は、痛みや睡眠不足とあらがいながら、吸い込まれるようにネットの海に飛び込んだ。今、どんなに眠くても調べなければならないことがある。

 そう、「痔瘻」とはどんな病気なのか?

 私は、フル稼働で調べた。痔瘻について。調べてみるとこの病気、名前に「痔」こそついているが、少なくとも私の知っている「痔」グループの皆さんとはずいぶんとその性格が違っていることがわかってきた。

 実は私は20代の頃に「イボ痔」は経験済みだったが、どうやら痔瘻は、そんなものとは全然違う次元にいるらしい。私の記憶でも、「イボ痔」は私の身体に繋がっている「外部の何か」であったが、今回のそれは明らかに「外部の何か」ではない。

 Wikipediaはその冒頭、実に簡単な一行で「痔瘻」のことを紹介している。すなわち、「肛門の周辺に穴ができて、そこから膿が出る疾患」とある。ひとつわかったことがある。「痔瘻」は「外部の何か」ではなく「穴」らしい。

 「肛門の周辺に穴」?!

 と、かなりおかしなことが書いてある。ご存じのように肛門には「穴」がある!それは知っている。でも、私の知る限り、少なくとも男性には、肛門の周辺に「肛門以外の穴」はない。

 当時は自分でも、よくわからなかった。土曜昼間の医師の説明が異常に早口だったのと、かなりの激痛と告知の直後で、動転しすぎてさっぱり説明が頭に来なかった。なので、この時の検索で、私は「痔瘻」についての基礎を知ることになる。

 この時、私なりに各所で勉強した知識を、説明してみる。

 私も今回初めて知ったのだが、体内の「腸」と体外の「肛門」は一直線に繋がっている。ま、当たり前と言えば当たり前だ。だからこそ、「腸」の中を通ってきたウンチ君は「肛門」から外に出る。途中、漏れることはない。てゆーか、漏れちゃ困る。

 つまり、「腸」と「肛門」は見事に繋がっている訳だ。ところが、体内の「腸」と体外の「肛門」は構造が全然違っているので、その二つのジョイント部分は、とても複雑な構造をしているらしい。この構造のせいで「痔瘻」という病気は発生する。

 そんな、「腸」と「肛門」が繋がっているジョイント部分に「肛門小窩(こうもんしょうか)」と呼ばれる、小さな凹みが6〜11個ほどある。筒の中にぐるっと一周、小さな凹みがついている。肛門の直径を考えると小さな小さな凹みだ。しかも、深さは1mm程度だという。

 かなり小さな凹みだが、痔瘻にとってはとても大きな意味を持つ。

 なぜなら、痔瘻はすべて、この「肛門小窩」を原因として起こるからだ。たまたま体調を崩しているなどして免疫力が落ちている時に、このわずか1mmほどの凹みである「肛門小窩」に下痢便がたまたま付着してしまった瞬間、これこそがパチンコで言うところの「入賞口」に球が入った瞬間だ。

 深さ1mmの凹みに便がつくということは、ほぼ「滴」のようなものだ。「滴」とは言え便なので、綺麗なもんじゃない。要らない細菌がついている。で、これらがたまたま凹みの中で腐ってしまうと、パチンコ的に言うところの「アタッカー」が開く。

 ここからは「大当たり」に向かってまっしぐらだ。

 ちなみに、肛門周囲に細菌が侵入して炎症が発生した状態を「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」と言う。「肛門周囲膿瘍」という状態になってしまうと、膿がどんどん出てくるのだが、恐ろしいことにこの膿は、体外に排出されるのではなく、体内に流れ出していく。

 こうなったら「大当たり」である。

 「膿」は、まるで頭の悪い寄生虫のように、体内を好き勝手に進んでいく。結果、体内に膿の穴が開いていく。ある人はこれを「DigDag風の地下穴」と呼んでいたが、こうしてお尻のお肉の中に膿のチューブが完成する。これを専門用語で「瘻管(ぢかん)」と呼ぶ。

 この穴が完成すると、あなたは立派な「痔瘻(ぢろう)」患者である。

 という訳で、「痔瘻」の説明だけでかなりの行数を割いてしまったが、おわかりいただけただろうか?

 痔瘻は「痔」グループのひとつではあるが、いわゆる「痔」とはずいぶんとその性格が違っている。のちに、もっと詳しくネットを検索することで改めて知ることになるのだが、「痔瘻」患者の悩みが、「あ、痔でしょ?」と軽く見られてしまうことだったりする。

 しかも「痔瘻」は、その原因までが恐ろしい。きっかけは、下痢便が深さ1mmの凹みに付着したことだけだ。それ以上でも以下でもない。すべての悲劇がそこから始まる。どこまで進むかはあなたの運次第!

 パチンコ玉を入賞口に入れて、当たりが出たらアタッカーが開いて大当たり、そこからどんどん確変を重ねていくと、究極の大当たり、「痔瘻」にたどり着く。痔瘻、それはまるで、お尻のあたりで妖しく微笑む、悪魔のパチンコのような病気だ。

 なんだ、それ?
 
 続きは、書く。きっと、書く。

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