極楽とんぼ秘話

　先日、とある情報収集の最中に、自分自身に関する情報をゲットして、驚いた。とあるラジオで私のことが話されていたらしく、その書き起こしがネットに上がっていたのだ。これだ！

加藤浩次、『めちゃイケ』抜擢への道筋を作ってくれた女性の存在「放送作家に『極楽とんぼが面白いよ』」

　MBSラジオのラジオ番組『極楽加藤・よゐこ有野のオレたちゴチャ・まぜっ！〜集まれヤンヤン〜』の中で、極楽とんぼがめちゃイケの前身番組である「とぶくすり」に入った経緯が紹介されていて、その中に私の名前が出てくる。

　このラジオ記事によると、私が「女の子の店」で店の女の子から「極楽とんぼが面白いよ」という情報を得て、その言葉が極楽とんぼ抜擢に繋がっていく、という話だ。

　この話は、まあ、だいたいあってる。でも、ちょっとだけ違ってる。なので将来、「極楽とんぼ正伝」が書かれる時のために、いちおう正しい話もここに書いておこうと思う。（まあ、今の感じじゃ、そんなものが書かれるのは、ずいぶんと先のことになりそうだけどw）

　さて、正しい歴史とは？

　フジテレビの深夜番組「とぶくすり」と言えば、当時舞台俳優と放送作家の兼業だった私が、俳優業をやめて放送作家に専任するきっかけとなった番組のひとつである。

　そんな「とぶくすり」のスタートが93年春で、その、さらに前身番組となった「新しい波」がスタートしたのが92年の秋である。この番組では、当時のフジテレビの若手ディレクターがそれぞれ若手芸人を発掘してきてネタをさせた。

　有名なところで言うと、若手ディレクターだった片岡飛鳥が連れてきた「よゐこ」が第３回目に、同じく「ナインティナイン」が第10回に登場している。他にも、T・K・O、キャイ〜ンらが出演してネタとトークを披露している。進行役は当時新人だった西山喜久恵アナウンサー。

　そんな中、番組も後半になろうかという頃に、放送が迫っているのに魅力ある若手芸人がなかなか見つからないということがあった。そろそろスタッフ一同の知ってる若手芸人の名前も尽きてきた。でも、放送は間近。とにかく、可能性のある若手芸人を探さなきゃ！って時に、会議の席で私があることを思い出した。

　それは、とある舞台に「客演」した時のことだった。そう、その頃は当時所属していた劇団（第三舞台）とは別に、他の劇団やプロデュース公演に呼んで貰って出演することがたまにあった。これを「客演」と言う。

　そんな客演のひとつで稽古をしていた時のことだった。その公演に小さな役で出演していた若い女優さんの１人が私の前にふらりと現れて言った。

「伊藤さんて、お笑い番組で作家さんなんかもしてるんですよね？」
「うん。まだペーペーだけどね」
「極楽とんぼって知ってますか？」
「うん？なに？それは名前？」
「はい、お笑いコンビです」
「…えーっと、ごめん。知らない」
「ですよね。でも、憶えておいて下さい」
「なんで？」
「どうしても」
「面白い？」
「はい」
「知り合い？」
「…」
「ファン？」
「まあ、みたいなものです。とにかく、憶えておいて下さい」
「極楽とんびね」
「極楽とんぼです！」

　そんな会話があった。しかも、奇跡的に私はその名前をふっと思い出した。

「オグ、極楽とんぼってコンビを、探してきて貰える？」

　当時の番組AD「オグ」こと小倉伸一に頼んで、「極楽とんぼ」というコンビを探してきて貰った。ほどなくして彼は、彼らのライブの映像を当時よしもとの常設小屋だった銀座七丁目劇場で撮ってきてくれた。で、見た。

　舞台の上で、ずーっと喧嘩してる２人がいた。

　蒸発してた父親（デブ）が突然帰ってきて、それを許さない息子（色男）と喧嘩を続けるという設定のコントだった。いや、コントというよりも、ただただ喧嘩ばかり続ける二人がそこにいた。でも、その喧嘩には不思議な面白さがあった。この喧嘩、永遠に終わるな！とさえ思った。そんな魅力があった。

　私はディレクターに、この喧嘩ばかりしてる二人組を推薦した。

　そして、彼らの「新しい波」への出演が決まった。Wikipediaで調べると、二人は1993年2月5日の第15回に出演している。それからほどなくして、「新しい波」は終わるのだが、入れ替わりに始まるのが、「新しい波」のディレクターの１人だった片岡の作る新しいコント番組である。

　その時の出演メンバーには、片岡が見つけてきたナインティナインとよゐこ、伊戸川俊伸ディレクターが見つけてきた光浦靖子（オアシズ）、さらに、私が以前「笑いの殿堂」という番組の構成をしていた時に知り合った本田みずほ、そして、極楽とんぼが選ばれた！

　1993年4月8日から始まったこの番組が、「とぶくすり」である。