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2016.10.17

手術の話(2) 〜手術前日〜

 人生初めての本格的な入院および手術の話。先日アップした一回目は、入院までの話。今日アップする二回目は、入院=手術前日の話。

 さて、当初の予定では、手術の開始予定時間は水曜日の14時だったが、入院は火曜日の午前10時から11時の間。つまり、手術の24時間以上前に、病院に入院することになった。正直、少し早いなと思った。

 ま、後から考えると、手術のためにはいろんな準備が必要なので、無理なくそういった準備を進めるために、こういうスケジュールになっているようだ。とくに、入院の準備にはそれなりの時間がかかる。自宅から持ってきた大量の荷物を解き、病院の各種施設を連れ回ってもらったりすると、いつの間にかある程度の時間が過ぎているものだ。

 が、入院すると、とにかく病室に次々と、病院内のいろんな部署の人がやってきて、さまざまなレクチャーやQ&Aタイムが続く。手術のことはもちろん、入院についての諸注意などもある。中には、DVDプレイヤーを渡されて、それを見て勉強するという時間まである。

 あと、看護師さんや医師から、これまでのいろんな病歴や体の特性などを聞かれたりもする。書類も提出する。あと、手術のためにはもっとも大事なことだが、問題となる良性腫瘍の位置の確認のために、医師が何度も部屋にやってきて私のお尻を触りまくった。

 触りまくった、と妙な書き方をしてしまったが、私はその男性医師に同情する。口頭でも何度も謝罪した。私のお尻のせいで、何度もすみません!これが偽らざる私の気持ちだった。というのも、私がこれから切除する「良性腫瘍」は良性すぎるせいか、これまでの人生で私が一度も「痛い」と感じたことがない。

 別の言い方をすると、とくに痛みもなくて、しかも筋肉の奥深くで静かに存在しているそれは、たとえ4センチ強の直径を持った球体だったとしても、宿主である私でさえそれがいったいどこにあるのか、まったくわからない存在なのだ。それはちょうど、自分の内臓を感じて「ここが膵臓です」と他人に説明するのと似ている。そんなこと、無理だ!

 だから医師は、何度も何度も私のお尻を触りまくりながら、ゴルフボール大の粘液腫(ネッチョリした腫瘍)を探った。だが、なかなか見つからない。正確な場所は手術当日にエコーを使って確認する予定らしいが、ある程度の目星はつけておかないと、この医師の仕事は終わらないらしい。

 医師は、必死に私のお尻を揉みしだき続けた。

 そんな彼の苦闘の結果が、以下の写真である。正確なガイドラインは翌日に赤マジックで描かれることになるのだが、この日医師は、黒マジックでだいたいの手術目的地に印だけをつけた。

 この医師はたぶん「右(Right)」の意味で「(R)」と書いたんだと思うが、結果的には、僕のお尻が「商標登録」されちゃった。えらいことだ。

  さて、この日は私のせいで、もうひとつ病院スタッフにご迷惑をおかけしてしまったことを告白しておかなければならない。それは、私のちょっとした勘違いから生まれた。そのせいで、当日の担当看護師さんに対して私は、ひどいミスを犯してしまった。

 問題のきっかけとなったのは、その日の午後、若い看護師さん(女性)のこんな一言だった。

「伊藤さんは、手術までにお尻の毛を剃らないといけませんが、ご自分で剃ったことがありますか?」

 この看護師さんの言葉はなんにも間違っていない。だが、私は以下の三つの理由から、この看護師さんの言葉を勘違いしたまま理解してしまった。

  勘違いした理由のひとつは、①私にとって人生で初めての手術が、痔瘻の手術であったことだ。

 そして痔瘻の手術というのは、その特性から、お尻の中でももっともナイーブな場所を中心に手術が行われる。本当に本当にナイーブな場所にナイフを突き立てて、切ったり貼ったりする。

 もう一つの理由は、②(さっきも書いたように、)私が私の中の異物の正確な場所を知らないこと。

 だから私は、それを切除するためにいったいどこからナイフを入れて、いったいどこからそれを摘出しようとしているのか、というイメージが頭の中にまったくなかった。

 三つ目の理由は、③私の体の特異性による。

 実は私は、尋常ならざるくらいに体毛が薄い。上の「Rの写真」を見て貰ってもわかるように、男性としてはかなり異常なくらい、通常の男性になら当然あるはずの脚やお尻にまったくと言っていいほど毛が生えていない。だから、私のお尻周辺で毛が生えている場所と言えば、実は一箇所しかない。普通は誰も見ることのない場所。そう、お尻の中でももっともナイーブな場所!私の場合は、お尻の毛がそこだけにほんのり生えている。

 という前提で、さきほどの看護師さんの言葉を思い出して欲しい。

「伊藤さんは、手術までにお尻の毛を剃らないといけませんが、ご自分で剃ったことがありますか?」

 私は以上の言葉をまったく勘違いしたまま、聞いてしまった。そして、勘違いしたままの私の、これに対する返事はかなりアワアワしていた。

「お、お、お尻の毛を剃るんですか?…え、しかも、自分で剃るんですか?む、む、無理です、絶対に!」

 そう言われて、看護師さんはもっと困った顔をしていた。「困りましたねぇ」

 ここで私は気付くべきだったが、気づけなかった。そして私は続けた。

「僕には絶対、無理です!!!どうしても剃る必要があるなら、看護師さん、手伝ってもらえますか?」

 そんな私の強い言葉に対する看護師さんの表情がなんとも言えないぼんやりしたものだったのを、今でも私は覚えている。看護師さんは「この男性はなぜ、自分のお尻の毛を私に剃らせることに、こんなにも必死なんだろう?」と思っていたはずだ。

 最後に看護師さんは言った。

「では、わかりました。伊藤さん、14時までにシャワーを浴びておいて下さい。お尻の毛については、私がお手伝いします!」
「…お、お願いします!」

 そして運命の14時がきた。私は神妙な顔でシャワーも済ませておいた。

 そして、看護師さんが専用のシェーバーを持ってきてくれた。私は彼女の手に握られたシェーバーを見つめた。「これかぁ…。これで剃るのかぁ?痛そうだなぁ」というのが私の素朴な感想だった。看護師さんが言った。この壁に両手をついて下さい。

 その格好は、米国の田舎町でスピード違反で捕まった犯人が、パトカーに両手をつかされて体全体を調べられる時の格好に似ていた。

 「こんな格好で、あの場所の、あのナイーブすぎる場所の毛を剃ることが出来るんだろうか?どうやって!?」

 私の疑問をよそに、看護師さんの冷静な指示が続いた。

「では、伊藤さん、寝間着をまくって、お尻を見せて下さい」

 その格好は、米国の田舎町でスピード違反で捕まった犯人が、パトカーに両手をつかされて体全体を調べられる時の格好のまま、ズボンとパンツを膝まで降ろしている姿に似ていた。

 「そんなんじゃ、絶対に剃れないぞ!」私は、思った。

 でも、指示に従った。指示通りにお尻を少しだけ見せた。すると、私のその不思議な姿を見た瞬間に、看護師さんは大きな声をあげた。この時点の看護師さんは、純粋に驚いていたらしい。

「伊藤さん!伊藤さんのお尻に毛、全然ないじゃないですか?」

 私は私で驚いていた。「え、え、え???…お尻に毛がない?…あーーーーーー!」

 看護師さんが冷静な口調で告げた。

「伊藤さん、これなら、まったく毛を剃る必要がありませんよ」

 私は、大きな口を開けたまま、固まるしかなかった。

「あーーーー!お尻の毛って、そっち…だったんですねぇ!!!お尻の毛のこと、勘違いしてました!本当にごめんなさい!!」

 ご理解いただけただろうか?手術のためにお尻の毛を自分で剃って欲しいと言われた私は、これまでのお尻手術の経験から、お尻のとってもナイーブなところに生えている毛を自分で剃らなければならないと思い込み、絶望し、結局、看護師さんにお願いすることにしたが、それらすべては勘違いだった。

 どうやら手術の際にナイフを突き立てるのは、お尻のほっぺの部分、つまり、さっきの「Rの写真に写ってたお尻の場所」らしく、お尻に毛が生えていた場合、そこの毛を剃る必要があったのだ。ところが、残念ながら私のそこには一切の毛が生えていなかった。すべては私の勘違いだった。あの時の看護師さんには、本当に申し訳ないことをした!!!

 こうして手術の準備は次々と終わっていく。夕方食べた食事が手術前最後の食事になった。お水の制限も始まった。20時には下剤を飲んで、お腹の中のものを出し尽くすことも求められた。空っぽな体にして、よく寝て、翌朝を待ちましょう、ということだった。

 あとは手術当日、つまり明日を迎えるばかりだった。

つづく

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